マラソン大会に参加したり、テレビでエリート選手のレースを観たりする際、「この大会は〇〇に認定されている」といった言葉を聞くことがありますよね。実は、マラソン大会にはいくつかの「格付け」や「認定」があり、それぞれ異なる目的と役割を持っています。
今回は、ロードレースの世界で重要な役割を果たすWorld Athletics (WA)、AIMS、そしてWAが認定するラベルレースとAbbott World Marathon Majors (AWMM) の違いについて、分かりやすく解説します。

World Athletics (WA) と AIMS の違いって?
まず、ロードレース界の二大組織ともいえるWorld Athletics (WA) と AIMS について見ていきましょう。
World Athletics (WA) とは?
World Athletics(WA) は、かつて国際陸上競技連盟(IAAF) と呼ばれていた、陸上競技全般を統括する国際的な統括団体です。1912年に設立され、陸上競技のルール制定、世界記録の公認、ドーピング対策、そして世界選手権などの主要大会の開催・管理など、陸上競技に関するあらゆる側面を管轄しています。
WAは陸上競技における最高権威であり、日本の陸上競技連盟(JAAF)を含む各国の陸上競技連盟がWAに加盟しています。陸上競技が公平で健全に発展するよう、世界規模で推進する役割を担っています。
AIMS とは?
一方、AIMS は「国際マラソン・ディスタンスレース協会 (Association of International Marathons and Distance Races)」の略称です。こちらは1982年に、マラソンや長距離ロードレースの主催者たちによって設立された国際的な協会です。特定の個人や企業が母体ではなく、世界中のロードレース主催者が集まって設立された、いわば「業界団体」のような位置づけです。
AIMSはロードレースに特化しており、その普及、大会運営の質の向上、そして会員である主催者間の情報交換などを主な目的としています。特に、ロードレースのコース測定の基準設定や、WAと連携した世界記録の公認プロセスにおいて重要な役割を担っています。
WAとAIMSの関係性
特徴 | World Athletics (WA) | AIMS (国際マラソン・ディスタンスレース協会) |
組織の種類 | 陸上競技全般の国際統括団体 | ロードレース主催者の国際協会 |
管轄範囲 | 陸上競技全体(トラック、フィールド、ロードなど) | マラソン、ハーフマラソンなどのロードレースに特化 |
主な役割 | ルール制定、世界記録公認、ドーピング対策、主要大会管理、各国連盟の統括 | ロードレースの普及、運営支援、コース測定基準、会員間の情報共有 |
関係性 | ロードレースにおけるAIMSの活動はWAの規則に準拠し、協力関係にあります。 | WAの傘下ではなく、ロードレース分野でWAと連携・協力するパートナー組織です。 |
簡単に言えば、WAは陸上競技全体の「政府」のような存在。そしてAIMSは、ロードレースという特定の分野で「業界団体」として活動し、WAと協力しながらその発展に貢献している、と理解すると分かりやすいでしょう。
「ラベルレース」と「ワールドマラソンメジャーズ」の認定
次に、マラソン大会そのものの「格付け」である、World Athletics(WA)が認定するラベルレースと、Abbott World Marathon Majors (AWMM) について見ていきましょう。
World Athletics (WA) ラベルレースとは?
WAのラベルレースは、世界中のロードレースの品質を保証し、アスリートのパフォーマンスを促進することを目的としています。特に、エリート選手の参加、ドーピング検査の実施、そしてコースの正確な測定などを重視します。
ラベルにはいくつかの種類があり、厳しさや権威性が異なります。
- プラチナラベル (Platinum Label):最も高いレベルの認定で、世界最高峰のレースに与えられます。エリート選手の出場義務や厳格なドーピング検査が特徴です。
- ゴールドラベル (Gold Label):プラチナラベルに次ぐレベルのレースに与えられます。
- エリートラベル (Elite Label):ゴールドラベルに次ぐレベルのレースです。
- ラベル (Label):基本的なWAの基準を満たすレースに与えられます。
主な認定基準には、エリート選手の出場要件、正確に測定されたコース(2名の計測士、うち1名は最高レベルの資格保持者が必要)、ドーピング検査の実施、医療サービスの提供、安全管理、環境への配慮などが含まれます。
Abbott World Marathon Majors (AWMM) とは?
Abbott World Marathon Majors(AWMM) は、世界で最も権威あるマラソン大会をシリーズ化し、マラソン界の発展とランナーのモチベーション向上を目指しています。
現在、以下の7つの主要マラソンがAWMMに認定されています(2024年11月よりシドニーマラソンが追加)。
- ボストンマラソン(アメリカ)
- ロンドンマラソン(イギリス)
- ベルリンマラソン(ドイツ)
- シカゴマラソン(アメリカ)
- ニューヨークシティマラソン(アメリカ)
- 東京マラソン(日本)
- シドニーマラソン(オーストラリア)
これら7つの大会を完走すると、「シックススターメダル」(シドニー追加後も名称は変わらず)が授与されるなど、一般ランナー向けのモチベーション向上策が特徴的です。エリート選手にとっては、これらの大会での成績がAWMMシリーズチャンピオンシップのポイントに繋がり、高額な賞金も用意されています。
ラベルレースとワールドマラソンメジャーズの関係性
WAのラベルレースは「マラソン大会そのものの品質と国際的な競技水準」を評価するものです。一方、AWMMの認定は「特定の、最も権威のあるマラソン大会の『シリーズ』」としての位置づけであり、それらを完走することの達成感を重視します。
重要な点は、AWMMに認定されている大会は、すべてWAのプラチナラベルにも認定されているということです。つまり、AWMMの大会は、WAが定める最高水準の基準をクリアしているということを意味します。
簡単に言えば、WAのラベルは「良いレースであることの証明」であり、AWMMは「世界でもっとも権威のあるレースのグループ」である、という違いがあります。
具体的なラベルレースを見てみよう!
毎年認定状況は変わるため、最新の情報はWAの公式ウェブサイトで確認することをお勧めしますが、いくつか代表的なレースを挙げてみましょう。
World Athletics プラチナラベル (Platinum Label) レースの例
世界最高峰のレースが名を連ねます。
- 欧米の例:
- ボストンマラソン(アメリカ)
- ロンドンマラソン(イギリス)
- ベルリンマラソン(ドイツ)
- シカゴマラソン(アメリカ)
- ニューヨークシティマラソン(アメリカ)
- アムステルダムマラソン(オランダ)
- バレンシアマラソン(スペイン)
- 日本の例:
- 東京マラソン
- 名古屋ウィメンズマラソン
- 大阪女子マラソン
- アジア・オセアニア等の例:
- シドニーマラソン(オーストラリア)
- ソウル国際マラソン(韓国)
- 上海マラソン(中国)
- 廈門マラソン(中国)
World Athletics ゴールドラベル (Gold Label) レースの例
プラチナラベルに次ぐレベルで、国際的に高い評価を得ているレースです。
- 欧米の例:
- バルセロナマラソン(スペイン)
- ロッテルダムマラソン(オランダ)
- コペンハーゲンハーフマラソン(デンマーク)
- ヒューストンマラソン(アメリカ)
- 日本の例:
- 福岡国際マラソン選手権大会
- 北海道マラソン
- 大阪マラソン
- アジア・オセアニア等の例:
- ムンバイマラソン(インド)
- 広州マラソン(中国)
World Athletics エリートラベル (Elite Label) レースの例
ゴールドラベルに次ぐレベルで、有望なエリート選手が出場する質の高いレースです。
- 欧米の例:
- 日本の例:
- 別府大分毎日マラソン
- 防府読売マラソン
- 香川丸亀国際ハーフマラソン
- ぎふ清流ハーフマラソン
マラソン大会のラベルや認定を知ることで、それぞれの大会の特性やレベルがより深く理解できます。ぜひ、次のレース選びや観戦に役立ててみてくださいね!